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回教徒は中国にも多いが、豚を特に好む中国では、すこぶるやっかいな問題になるらしく、中国独特の農業協同体では、豚を売ったお金を回教徒である組合員が受け取るべきか、どうか、豚皮の靴やカバンを使っていいかどうか、などが問題になるという。
他の宗教徒と自分のところの信者とが、1つの協同体に入って協力し合うという事態は、マホメ″トも予想できなかったらしく、もちろん回教のバイブル『コラン』にも指示なぞない。
いずれは『毛語録』によってでも解決されねばならない問題なのかもしれない。
インドには、インド教徒と回教徒とがいっしょに住んでいるが、どっちも豚肉を食べない。
うまくいくかというと、そうでもなく、この両方のけんかとなると、相手の門の中に豚を追い込んで、豚肉を門前に吊しして、それによって最大の憎悪ないし軽蔑の意志を表明する。
いつもは食されない豚が、そんなときだけは被害者となる。
世界中市場を広げて、世界の炭酸飲料界に君臨しているコカコラも、東南アジアでは、コラには豚の脂が入っているというデマがとんで、打ち消すのに大変だったという。
ユダヤ教の国イごフェルには、国中に豚は1匹しかいない。
動物園に飼われており、飼育係が世話を嫌うのか、″みせしめ″のためか、この豚は泥にまみれていて、特にきたなくしてあるという。
戒律のきびしい回教徒やインド教徒も、日本では豚を全然扱わないレストラソなんて、まずないから、本国でのようにきびしいことはいわず、まあ豚肉だけは食べないことにしているようだ。
外国にいるからといって、「例外」はいっさい認めない彼らは、日本の焼きめしや焼きものようなものが好きだが、たいてい豚肉加工品であるハムの切れはしが入っているので食べようとはしない。
商売柄中東や東南アジアの学生と話をすることが多い。
回教徒の1人に「ジェット機の中では豚は出なかったか」と聞いたことがある。
「出た。ポクチャップだった」 「食べなかったか」 「食べた。
うまかった」 「いけないのだろう?」 「地上ではいけない。私はそのとき、山よりも高いところにいた。あんなに高いところを宗教は支配しない」 アラーの神が山にいるのか天にいるのか、聞き洩らしたが、とにかく、私が耳にした唯1の″例外″だ。
豚肉を食べない国では、そんなぐあいに豚をきらう。
いったい豚食(?)のタブーというのは、豚がきたないところでも平気で、大食でなんでもむさぼり食い、やたらに太り、7鈍重で愚鈍で、節操がない。
また、発情期がほぼ201日周期で年中くり返し、子を生んだあとも離乳後はわずか1週間ぐらいで発情が始まるという人間並み(?)の性生活など、古代のストイ″クな宗教の教義を逆なでするような豚の習性によるものだ。
「太った豚となるよりも、やせたソクラテスたれ」と言った経済学者スチュアトXルのことばがのこっているということは、20世紀後半の日本でも、動物としての豚が、人間の理想像からいかに遠いものであるかを示している。
「豚に真珠」とか、ののしりことばに、「豚野郎!」とか、豚を食べるヨーロッパでも、豚はロクな意味には使われない。が、豚はうまい。
いくら不潔の、バカの、大食の、無節操の、ガソコの、と生きている豚を軽蔑してみても、その肉のうまさに目をつむるには、それこそよほどの節操とガソコさが必要だ。
イギリスの随筆家チャルズラム(1775〜1834)は、原始人類が火を知り、肉を焼くことを知ってゆく過程を、中国の焼豚についてユモラスな、今日でいえば「SFストリ」をつくっている。
人間がまだ生肉をたべることしか知らなかった太古、豚飼いの息子が火遊び(今日のようなイキな意味ではなく、火が珍しかったころのほんとうの火遊び)をしているうちに、家(これも今日のような、ちゃんとした住家ではもちろんなく、ノアの洪水以前の、日本でいえば縄文・弥生時代のようなわらと木の枝の掘立住居)に火がついて焼けてしまう。
子豚も焼け死ぬ。息子は、その焼け跡の中からいままで鼻にしたこともないよい匂いがただよってくるのに気づく。
ふしぎに思って、彼は豚にさわってみる。
子豚はまだ熱かったので、指をやけどする。
「それで、指を冷やすために、彼らしくのっそりしたしぐさで、指を口にあてがった。
焦げた皮のかけらがいくつか、指にくわえてはげてきた。
そのとき、彼は生まれてはじめて(いや、世界が始まっていらいはじめて、と申すのは、彼より前には誰も知らなかったのだから)、焼豚のパリパリした皮の味を知ったのである……」 話はさきへ進み、父親が帰ってきて、だいじな子豚が焼け死んでいるので怒って、息子を梶棒でなぐろうとするが、子豚にさわってみて、同じように指を焼き、同じように指を冷やすためにロに当がって、焼豚の味と香りを知る(世界で2人目)。
この親子の家では、子豚が生まれるたびに小屋が焼けるので、不審をいだいた人々が探って、ついに親子が豚を焼いて食っているというおそろしい(なにがおそろしいのかしらないが)秘密が露見する。
親子は裁判にかけられるが、裁判長も陪審員も、証拠物件として提出された豚の丸焼け(丸焼きではない)に触ってみて指をロで冷やした結果、相談らしい相談もせずに満場1致で無罪の判決を下した。
「焼き豚は、焼いた火事の規模がどうであれ、灰になってしまわないうちに料理できれば、なかなかおいしいものであった」(『エリア随筆』による) この物語は、原始中国の裁判がアングロサクソソ流の陪審制であったと決めてかかっている点、また、やけどした指を冷やすのにとっさにロヘもっていくという彼らの癖を、何のためらいもなく先史中国の物語のヘソに使っていて、とっさに耳たぶへもっていく日本人のような民族もあることを知らない点、何よりも人類が加熱調理を知る前から定着して家畜飼育を行なっていた、と決めてかかっている点など(考古学的には、火の使用は50万年前の北京猿人から、有畜農業の開始は1〜2万年前の新石器時代からとされている)、ちょっと時代考証(?)に乱れがあるが、ともかく豚の丸焼きの味が、人間にとって抗しがたいものであったことを、たくみに言いえている。
豚の祖先はもちろん猪だが、ヨーロッパでは、新石器時代のスイスの遺跡から犬、羊、牛などの骨といっしょに、豚の遺骨も発見されており、ヨーロッパの最古の家畜とみなされている。
実は中国では紀元前2200年ごろから豚を飼っていたといわれ、『孟子』(前320年ころ)には鶏・犬・鹿・豚を家畜としてあげてある。
猪はもともと賢い動物なのだが、人間に飼いならされているあいだに鈍重な豚になってしまった。
水にからだを浸すのを好み(水のないところで飼われていると、泥の中にねころがったりするようになる)、また行動もおそいので、羊や馬や牛のように遊牧に適さず、農耕民族の家畜となった。
遊牧民は農耕民族を蔑視していたため、農耕民族の家畜である豚を蔑視するようになった、といわれる。
古代ユダヤ人や回教徒が豚をきらうのは、そのためともいわれている。
豚の祖先はアジア東南部でならされ、ヨーロッパに伝わった、というのが定説のようだ。
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